「留学生が失踪してしまった…。どうしよう…。」
その様な事態にならないように日々の生活指導に努め、失踪を防止できるような留学生とのコミュニケーションを図ることが基本ですが、留学生を受け入れているかぎりその可能性はゼロにはならないかもしれません。

その様な場合の指針の一つとして、「留学生の生活指導のための手引2020」があります。
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/shigaku/ninka/files/0000000074/52ryugakusei_tebiki2020.pdf
以下にその内容を抜粋します(他にも参考になることが沢山記されていますよ)。

目次

失踪に関係する学校側の行動について 

無断欠席者への対応

まず、留学生が無断で欠席しないように、やむを得ず欠席又は遅刻する場合は、必ず前もって学校
に連絡を入れるように指導を徹底することが前提となります。その上で、無断欠席者が出た場合の対
応について、学校としての取扱いを定めておく必要があります。
無断欠席者の放置が長期欠席につながり、その後連絡不能のため除籍処分とせざるを得ないという事態の発生も考えられます。これを防ぐためには、とにかく早い段階で、必ず本人に連絡を入れて状況を確認することが基本になります。連絡を入れるタイミングは、無断欠席をした当日中に連絡を入れることが重要です。
連絡を入れたところ、明日は必ず学校へ行くと言っておきながら、翌日も無断欠席をする場合もあ
るかもしれませんが、一旦留学生を受け入れた以上、そういった場合であっても連絡を入れ続け、留
学生と連絡を取ることができる状態を長く保ち、根気強く指導することが求められます。
電話での連絡がつかない場合には、メールをする、親しい友人に状況を聞いてみる、アルバイト先
に連絡する、自宅を訪問する、母国の両親に連絡を入れるといった手段が考えられます。こういった
手段をできる限り講じて、まずは連絡が取れない状況を打開し、指導を行います。
指導の中で、残念ながら勉学の意欲を失っている、あるいは金銭的な問題から学業の継続が困難で
あるなどのケースが生じた場合には、在留期間内といえども、自主退学及び帰国に向けた指導を行う
ことになります。
 

長期欠席者への対応

長期欠席者の判断は学校によって異なりますが、多くの学校では1か月以上休んでいる者を長期欠
席者として扱っているようです。
長期欠席者への対応についても、基本的な考え方は無断欠席者への対応と同じです。
○ 連絡が取れる状態を保つこと。
○ 長期間の欠席が続いている理由を明らかにすること。
○ 欠席の理由が曖昧な場合は、クラス担任や留学生担当教職員がその状況に応じて必要な指導を
行うこと。
○ 指導記録を作成しておくこと。
○ 以上の点について、クラス担任のみの把握にとどまらず、学校が組織として共有すること。
長期欠席の場合、在留期間更新許可申請等が不許可処分となることもありますので、その点を十
分に踏まえて指導する必要があります。

除籍・退学処分とする場合

長期欠席者の除籍・退学処分について 長期欠席者についてはいきなり除籍処分とせず、まずは前述の「無断欠席者や長期欠席者への対応」の指導を行います。
しかしながら、指導を尽くしても登校しない、又は明らかに勉学意欲を失ってしまっている場合等については、一定の時期には指導方針を「早期の帰国」へとシフトせざるを得ないでしょう。正当な理由なく出席が常でない状態が長く続き、これを放置してしまうことは、不法残留につながる恐れが非常に高いので、きめ細かく指導することが必要です。
8か月もの長期にわたり欠席が続いている留学生について、本人が既に勉学意欲を失っている事実を確認しながら、連絡も取れ学費も納められているからという理由だけで、在籍させたまま放置していた学校がありましたが、これなどはまさに早期に帰国指導を行うべき事例です。  長期欠席者の中でも、特に連絡が取れない留学生がいる場合は、友人、母国、アルバイト先など手を尽くして連絡をつけるように努め、速やかに帰国するよう指導してください。
除籍者・退学者の帰国指導、帰国確認、進路把握 除籍者・退学者は、「留学」の在留資格該当性を失っていますので、たとえ在留期間が残っていたとしても、速やかに帰国することが求められます。各学校においても、この点について十分留学生に説明し、適切に指導してください。
また、除籍者・退学者については、次のような方法により帰国事実を確認するようにしてください。
○ 帰国前
・ 帰国便の航空券(予約確認票)を確認 ※ 写しを保管 ・ 空港への見送り
○ 帰国後
・ 出国・入国のスタンプが押されたパスポートのページをメール又はFAX
・ 穴が空いた在留カード表面をメール又はFAX
※ いずれも写しを保管
・ 学校が母国へ電話連絡、又は留学生が学校へ電話連絡
※ 電話記録を作成 特に除籍処分等になった留学生は、卒業して帰国する留学生と比較して不法残留する恐れが高いことから、注意が必要です。留学生の母国語が可能な職員がいる場合は、できるだけ母国への連絡確認をしてください。言葉の問題でそこまでできない場合でも、最低限航空券の確認は必要です。 留学生に対し、帰国後に学校へ連絡を入れるよう、又は帰国便の航空券を提示するよう指導しても従わないといった声も耳にしますが、学校としては、留学生がきちんと帰国したことを確認する必要があること、帰国せずにそのまま3か月以上在留した場合は在留資格取消しの対象となり、在留期間を経過すれば不法残留者となることから、学校側の管理責任が問われることなどを説明し、指導することが肝要です。
また、学校として、常時、指導状況を把握する必要がありますので、指導記録を作成しておくことが大切です。

失踪留学生を生じた学校への管理責任について

優良な在留管理を行っている日本語教育機関には、「適正校」という選定制度があります。
しかし、1年間で在籍者に対して5%を超える不法残留者などを生じた日本語教育機関は、翌年は「慎重審査対象校」に選定され、在留資格認定証明書交付申請時に必要となる資料や、留学生に付与される在留期間が6か月となるなど、実際上の不利益を受けることになります。
入管は、これを「ペナルティではない」としていますが、日本語教育機関の経営上はペナルティ以外のなにものでもないでしょう。

以上を基礎として考えると、上記内容を一つ一つ丁寧に行っていくことになるものと思いますので、当該留学生と地道に話し合いながら「指導」を行うことが基本となります。

更に、出入国在留管理庁HPには、「留学生の卒業後等における教育機関の取組等について」には、所在不明となった留学生について触れられた記載があります。https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00086.html

ここには、
・「進路が明らかでない留学生については、帰国の指導及び出国した事実の確認に務める」といった表記があります。
・教育機関は、留学生としての活動を最後に確認した日から3か月経過した時点で所在不明の場合、または、それよりも前に退学・除籍によって受入れを終了した場合には、当該留学生の所在不明について届出るよう努める
とされています。

実際には・・・

おそらく、上記のようなものが失踪した留学生への基本的な対応指針となると思います。
そして、実際のところ、適正に学校運営と在籍管理を行なおうとしている非常にしっかりした学校であればあるほど、失踪した留学生をそのまま放置せず、所在確認を継続する傾向があります。縁あって受け入れた留学生が、犯罪に巻き込まれたり、不法滞在者となって辛い目に合わないようにしたいという強い責任感から当然の行動ですね。
所在確認が奏功して失踪留学生が見つかった場合には、説得の上帰国へ導く、といった流れになるはずです。
しかし、ここで日本語教育機関には細心の注意が必要となります。


入管庁は、令和4年2月に各日本語教育機関に向けて「留学生に対する人権侵害行為について」という注意喚起通知を発出しています。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001365953.pdf

 

ここで考えなくてはならないことは、「では、日本語教育機関として、失踪した留学生に具体的に何ができるのか?」ということです。


既にお分かりでしょう。そう「指導」つまり「説得する」ことだけなのです。上述の指針などもほとんどの部分は「指導する」となっていて「義務」の形態をとっていないのです。ここが、行政サイドの逃げ道となります。
従って、日本語教育機関の職員は、強制的に留学生に何かを「させる」「求める」ことは事実上できないのです。強制的に何かをさせてしまうと、それは「留学生への人権侵害」と捉えられるおそれがあり、大問題に発展する可能性があります。

私個人的には、『適法・適正に活動している留学生に対する日本語教育機関からの人権侵害行為』と『違法状態の活動をしている留学生への日本語教育機関の対応』とはきちんと区別して公的機関が対応すべきと思いますが、現実はそのようにはなっていません。
入管庁も、最近話題となっている収容施設内の不祥事や難民認定率の低水準などの批判が高まっているので、あえて人権問題化しそうな案件には首を突っ込みたくないのでしょう。
これでは、不良外国人がごね得をすることになってしまいかねないのですが、残念ながら現状はこれが現実です。
もしも留学生が失踪してしまったら、こういった現実も理解した上で対応されることをお勧めします。